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第3皿目 ごちそうさまとエゴサーチ

マンガ家ユニット「うめ」小沢高広のマンガ家さんちのまかない

第3皿目 ごちそうさまとエゴサーチ

2016年9月22日

あるマンガ家さんと、つまみの美味しいうどん屋さんで飲んでたら、こんなことをこぼされた。
「エゴサーチをして、ネガティブなことを書かれているのを見つけると心底つらい」

だよねー。

お互いデビューしたときは、アンケートハガキだのファンレターだので、感想がくるくらいだったもんね。それも編集部がざっとは目を通してるから、あんまりに辛辣だったり、ヤバかったりするものは、作者の目に触れることは少なかったし。それが今じゃ、SNSでダイレクトだもの。

これに対して「だったら、エゴサなんかしなきゃいいじゃん」っていうのは、実際そうしている人もいるけれど、うーん、そう言われちゃうとなあ、と思う。なぜならマンガは描きおえた時点で完成するのではなく、読者に届いてこそ完成するものだからだ。それは料理が誰かに食べてもらってこその料理であることに似ている。
ごはんをつくる、というのは、たんに料理を完成させるまでを指す言葉ではない。食卓に並べて、食べて「ごちそうさま」と言われるそこまでを指す言葉だ(いや、実際には後片付けまで含むけど、今はさておいて)。

空になった皿を返されればうれしいし、さらに「おいしかった」と言ってもらえれば舞い上がるくらいにうれしい。食べ残しが多ければ、あれこれ理由を考える。栗原はるみさんの『ごちそうさまが、ききたくて』というレシピ本の名著があったけれど、マンガ家をはじめ、ものを作る人間は大方そんな気分なのだ(ああっ、これも電書版がない!)。別に承認欲求だなんだ、と難しい話でなく、どこかに自分の漫画を読んで「ごちそうさま」を言っている人がいたら、それを聞きたいと思うのは、わりと自然な気持ちじゃないだろうか。
「文句言われるのが嫌だったら、誰にも見せなきゃいいじゃん」という人もいるかもしれない。ただこちらも同様の理由で難しい。自分のためだけのマンガというのは、そうそう描けるもんじゃない。いくら料理が好きな人でも、一人で自分のために作る料理はなかなか乱暴だったりする。それがかなりおいしかったとしても、少なくともそのまま人様に提供したいとは思わないだろう。

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『花のズボラ飯』2巻 p13-14より(秋田書店)

だからこそ「花のズボラ飯」という作品が独特のエロティシズムを伴って成立するのだ。めんたい豆腐丼おいしいよねー。
やや強引だけど、そう考えていくと「まかない」は、マンガに例えるとなんだろう。もちろんお金をもらってお客さんに食べさせるご飯ではないし、かといって自分ひとりのためだけでもない。同人誌? それもちょっと違うか。ほんとうなら人様に見せるものでもないよなあ、とも思いつつ、今日もせっせとInstagramやらPlagにまかないの写真を投稿している。

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・栗ごはん
・さんまの塩焼き
・豚肉と豆苗としめじのポン酢和え
・ポテトサラダ
・かぼちゃの煮物
・えのきのベーコン巻き
・きゅうりの塩水漬け

秋だー。というわけで、まかないも少々、秋っぽく。

「栗ごはん」は、栗ごはんの素を使って簡単に。
「さんまの塩焼き」は、うーん、お弁当だし、いったん開いて骨を抜いてから、焼こうかな、とも思ったんだけれど、食べるのは子供じゃなくて大人だしね。骨ぐらい選り分けられるでしょ。結局、頭を落として、ワタを筒抜きにして、半分にしてグリルで塩焼き。
「豚肉と豆苗としめじのポン酢和え」は、さっと茹でて、水気を切って、温かいうちにポン酢で和えた。ちょっと汁気があったので、お弁当用のカップに。本当はカップは使いたくないのだけれど、1回のお弁当で1つまでは使っていいルールにした(いずれやめたいが)。今回はたまたま冷蔵庫にあった豆苗にしたけど、小松菜でもほうれん草でも何でも大丈夫。
「ポテトサラダ」は、朝ごはんのときに、ジャガイモを多めに茹でておいて、半分は粉ふきいもにしてそのまま子供の食卓へ。残り半分をポテトサラダにした。今日はマヨネーズとバターで仕上げ。バターを入れるのは、都電庚申塚駅の構内にある居酒屋「御代家」さんを参考にしている。あちらはもっと黒胡椒を効かせているけれど、ちょっと切らしてたもんで。
「かぼちゃの煮物」はちょっとジャガイモとかぶったか。前日にめんつゆで弱火で煮ておいたもの。
「えのきのベーコン巻き」は、見た目のまんま。小束にわけて、1/2に切ったベーコンで包んで爪楊枝にさして焼く。
「きゅうりの塩水漬け」は、ピーラーで少し皮をむいたきゅうりを海水くらいの塩水に一晩つけたもの。ちょっとしなびたきゅうりでも、みずみずしく回復するという簡単便利な一品。

エゴサーチでへこんでたマンガ家さんには、こう話してみた。
「ナスが嫌いな人がナスを悪く言ったところで、それは個人の好き嫌いの範疇で、ナスがまずい食べ物であるという理屈に同意する人は少ないし」
あーなるほどー、とは言ってもらったものの、これは「読んでも傷つくな」といったのと同義で、あんまりいい例えじゃなかったかな、とあとで反省した。

(次回10月6日掲載予定! ※9月中は隔週で連載をお届けします)

ご紹介いただいた書籍、マンガはこちら!


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『ごちそうさまが、ききたくて』栗原はるみ (文化出版局)
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『花のズボラ飯』久住昌之、水沢悦子 (秋田書店)



小沢 高広(おざわ たかひろ)漫画家ユニット「うめ」の原作担当。

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