第5皿目 おいしくて苦手なあのごはん

マンガ家ユニット「うめ」小沢高広のマンガ家さんちのまかない

第5皿目 おいしくて苦手なあのごはん

2016年10月12日

自分がおいしいと思う食事を人にふるまう、という姿勢はものすごく正しい。
お客さんに提供するものを毎日、自分でもまかないとして食べてなお飽きない、という飲食店店主の話なんかもポジティブなエピソードとしてしばしば聞く。ただ世の中は、往々にして例外はある。
以前、よく通っていたアイリッシュパブにものすごくおいしい生のギネスビールを出すバーテンさんがいた。その人がいるのは週に3〜4日。連日通って飲み比べてみたけれど、明らかに他の人が入れたものよりおいしい。泡もきめ細かいし、なんとなくコクもあるように思う。とくにギネスは開栓日によってもずいぶん状態が変わるので、その辺りも確認してみたのだけれど、やっぱりその人が入れると際立つものがある。「なにかコツがあるんですか?」と単刀直入に当人に聞いてみたら、こんな告白をされた。
「実はギネスビール苦手で(笑)」
ええーっ、マヂですか?
聞くと、どうしてもギネスビールは納豆の匂いがする、という。
あらためて匂いを嗅いでみると、あー、たしかにどの匂いのことを言ってるのかはわからなくはない。えー、でもこんなに入れるのが上手なのに?
「嫌いなのに入れなくちゃいけないから、上手だという人の入れ方をすっごくよく観察したんですよー」

なるほどー。
「好き」ってある種の才能だと思うけど、たしかに究極の目標は、お客さんが喜んでくれることで、結果オーライであれば、それでいい。その日は、結局、ギネスビールが嫌いなバーテンが入れる生ギネスの世界大会があったら、優勝できるね、なんて酔っ払いトークをして終わった。ただこのときのことは、ときおり思い出す。
大人になって、ずいぶん嫌いな食べ物は減った。それでもいまだに「苦手」なものがある。ニンニクだ。味も香りも苦手。少量であれば、食べられないということはないけれど、料理に入っていると少量でもすぐに気がつくのはもちろん、料理に混じっていたかたまりを別のものと勘違いして、間違って食べてしまったりすると、翌日、胃が荒れてしまう。いくぶん体質というところもあるのかもしれないが、いわゆるスタミナ系のニンニクましましなものは完全にNGだ。
「ニンニクがダメじゃ、料理するとき困るでしょ?」とよく言われる。でもそこは大丈夫。さすがに、ニンニクメインの料理は作らないけれど、レシピによくある「ニンニクひとかけ」みたいな量は使う。理由は単純で、使ったほうがおいしいからだ。
「好き」で「おいしい」は、もちろんベストなんだけど、「苦手」だけど「おいしい」、ということもありえるし、逆に「おいしくない」んだけど、「好き」なんてこともあると思う。「好き」と「おいしい」、「苦手」と「おいしくない」をそれぞれ同じような意味にとらえてしまいがちだけど、ちょっと考え方を変えてみよう。「好き」と「苦手」を縦軸、「おいしい」と「おいしくない」を横軸にして分布グラフみたいにしてみるとわかりやすいかもしれない。

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とくに自分の場合、子供のころは偏食が激しかったので、「苦手」な料理は、「おいしくない」料理と思い込んでいた。自分は「苦手」だけど「おいしい」料理、自分は「好き」だけど「おいしくない」料理があることを知り、視野が大きく広がった。自分の「好き」と「おいしい」、「苦手」と「おいしくない」を切り離してから、やっと多少は自分の作ったものを他人に食べさせられるようになった気がする。

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・海南鶏飯
・フライドエッグ
・野菜炒め
・生野菜

今日は、エスニックに海南鶏飯(ハイナンジーファン)にしてみた。イメージとしては、住宅街にポツンとあるタイ料理屋さんが、ランチタイム限定で軒先で540円くらいで売っているお弁当のイメージ。深谷陽さんの『スパイスビーム』に出てくるタイ料理屋さんみたいだといいな。いや、住宅街にしては、あのお店物騒すぎるか。あれ? それ以前にタイ料理だと、カオマンガイ?
<海南鶏飯>のレシピは、いくつかあるけれど、ウチでよくやるのは、米と鶏モモ肉をショウガひとかけと、苦手だけど、ニンニクをひとかけといっしょに鶏がらスープの素で炊き込むスタイル。やっぱりニンニクを入れた方が風味が……と思っていたんだけど、今回、この原稿を書くにあたって、あれこれレシピを調べてみたら、あんがいニンニクを入れてないレシピも多い。あれー? その場合は、ソース側にニンニクを入れることが多いよう。そうか、その手もあるなー。次は入れないで作ってみよう。海南鶏飯というとよく甘辛いソースをかけたりするけれど、このときは鶏がらスープの素を多めに入れて、ソースはなしにしてみた。
<フライドエッグ>は、いわゆる普段の目玉焼きより、油多めで、揚げ焼きにした感じ。この方がエスニックな感じがするんだけど、お弁当なんで、より火を通しておきたい、といういちおう安全面の配慮でもある。
<野菜炒め>は、冷蔵庫にあったもやしとキャベツとピーマンをナンプラーでいためたもの。ほんとうにそんな料理があるのかは知らないけど、そこは気分で。そうそう、野菜炒めのTips。よく野菜炒めは強火で短時間に、と言われるけれど、最近それは俗説だと言うこともちらほら聞く。こちらの『野菜いためは弱火でつくりなさい』はその代表的な本。
火のついていないフライパンに野菜を入れて70度以下をキープした方が、シャキシャキとした食感になる、というもので、実際にやってみると、なるほど、これはおいしい。
<生野菜>はドレッシングがわりに、インドネシアの唐辛子とニンニクでできたサンバルというソースやタイのスイートチリソースをお好みで。お店なら、小分けの袋を添えるところだけど、まあそこは自宅兼仕事場なので、冷蔵庫から出す。

マンガを描くときでも、ぜんぜん好みじゃないけど、おもしろいマンガが描けるか。
うーん、どうだろう。一見、その姿勢を不誠実と捉える人もいるかもしれない。でも、自分では絶対に描けないタイプのマンガだけど、おもしろくて読んでる作品なんてたくさんあるし、自分で描いてるときはいまいち納得のいかなかったシーンに大きな反響をいただくこともある。あー、そういえば、本人は熟女好きなのに、十代の女子ばかりを描いているマンガ家は、赤松健さんだ(笑)。

(次回は、10月20日掲載予定!)

 ご紹介いただいた書籍はこちら!

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『スパイスビーム』 深谷陽 (日本文芸社)

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『野菜いためは弱火でつくりなさい』 水島 弘史 (青春出版社)



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小沢 高広(おざわ たかひろ)漫画家ユニット「うめ」の原作担当。

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