#293 言ってみたかった、言葉
あなたに、初めてのことを、言うのが好き。
つい、あなたに、言ってしまった。
「後ろから、してください」
そんな言葉を、言ったことがなかった。
映画では知ってるけど、自分で言うとは、思わなかった。
1秒前まで、一生言わないだろうと思っていた。
つい、口から、出ていた。
後ろからしてもらうのは、初めてではない。
自分の口から、お願いするのが、初めてだった。
まるで、ダンスを踊るかのように、あなたは私の体を、リズミカルに回転させて、気がつくと、後ろ向きになっていた。
本当は。
前から、一度、言ってみたかった言葉だったかもしれない。
かもしれないじゃなくて、きっとそうだった。
後ろからするのは、男性の希望ですることだと思っていた。
あなたに、後ろからしてもらうと、そうではないことに気づいた。
私の背中に、あなたの視線を感じる。
背中に感じるあなたの視線が、優しい。
私のウエストを、あなたの大きな手が、柔らかく包み込んでいる。
その手の、なんとも言えない優しさ。
あなたの顔は、見えない。
でも、わかる。
今、あなたの私の背中を見つめる目線は、限りなく、優しい。
私は、あなたの優しさに包まれている。
前からよりも、上からよりも、後ろから愛されるほうが、あなたの顔が見えない分、あなたの優しさをより感じることができる。
後ろからしてもらうのは、男性の希望じゃなくて、女の子の希望だった。
だって。
動いているのは、あなたではなくて、私のほうだから。
あなたは、私のリズムに、合わせてくれている。
また、初めての言葉を、言いそうになっていた。