#298 二重ドアの、間で
あなたのこっそりキスが、好き。
あなたと出会って、リップを変えた。
それまでは、キラキラ光るグロス入りが、お気に入りだった。
グロス入りだと、あなたの唇に、キラキラが移ってしまう。
みんながいるところでの、こっそりキスができなくなってしまう。
あなたは、こっそりキスをしてくれる。
みんなが、いるところでも。
たとえば、回転ドア。
回転ドアは、意外に、こっそりキスが、バレない。
最初は、驚いた。
みんなが、いるのに。
あなたは、そんなことには、ひるまない。
まるで、ベテランのマジシャンのように、私の唇を、奪ってくれる。
たとえば、エスカレーター。
前の人が、向こうを向いている瞬間に。
前に人がいても、マジシャンには関係ない。
いつ、あなたに、こっそりキスをしてもらってもいいように、心の準備をするようになった。
声がけはない。
マジシャンのアシスタントになった気分。
コンマ何秒のタイミングを逃すと、こっそりキスはできない。
アシスタントとしては、モタモタしていられない。
ステージに立つマジシャンのあなた。
そのアシスタントになるなんて、ロマンティック。
たとえば、二重ドア。
二重ドアの間が、こっそりキスのチャンス。
2つの外側には、どんなに大勢の人がいても、あなたはしてくれる。
コツは、こっそりキスの後、ニヤニヤしないこと。
今が、チャンス。
そこに、かわいい女の子が入ってきてしまった。
それでも、あなたは、こっそりキスをしてくれた。
そして、入ってきたかわいい子にも。
キスのダブルプレーだった。