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#314 後ろから、高いところの物を取って

あなたの背中の羽が好き。
あなたには、背中に妖精の羽が生えている。
私は、棚の上の桐の箱を取ろうとしていた。
棚の上に、いいくらいのスペースが空いていたので、引き出物をそこに置いてしまっていた。
ちょっと、高すぎた。
天井が高い分、棚も高かった。
ギリギリ、手が届きそうなところまで、頑張っていた。
不意に、後ろから、抱きしめられた。
あなたの温かみが、私を包み込んだ。
不思議な感覚。
あなたは、もちろん、背が高い。
手も脚も長い。
でも、背が高い感覚と違った。
あなたは、まるで背中の羽で浮かび上がって、棚の上の箱を取ってくれたみたいだった。
あなたが両手で箱を大切そうに持って、両手を伸ばす私に、後ろから優しく手渡ししてくれた。
後ろ向きに、手渡しされるなんて、初めての体験だった。
運ばれたのは、箱ではなくて、私だった。
初めての感覚。
これは、まずい。
これは、反則でしょ。
壁ドンよりも、反則。
後ろ向きだから。
あなたしかできない。
背中に妖精の羽が生えている人でしか、できない。
ねえ、もう1回、やって。
私は、あなたに、箱を渡した。
あなたは、微笑みながら、やってくれる。
後ろ向きだけど、あなたが微笑んでいるのが、わかる。
あなたは、もう1度、棚に箱を戻して、もう1度、取ってくれた。
後ろから、あなたが入ってきたみたいな感覚だった。
ねえ……。
もう1度、と言わなくても、あなたは、3回目をしてくれた。



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