#317 シャワーの後を、見せて
あなたのシャワーの音が、好き。
シャワーが、あなたに心地よく当たっているのが、わかる。
きっと、あなたよりも、シャワーのお湯のほうが、気持ちいいに違いない。
シャワーは、お湯を出しているというより、あなたに、あふれさせられている。
どんなに気持ちよかったか、後で、私が浴びる時、シャワーヘッドに聞いてみたい。
シャワーが、止まる。
キュッという音まで、セクシー。
あなたに、お願いした。
シャワーの後の、あなたの体を拭きたい。
あなたは、拭かないまま、バスルームから出てきてくれた。
開かれたカーテンから、朝の光が差し込んでいる。
朝の光に浮かび上がったあなたの体は、さっきまでの体と、まったく違って見える。
ミケランジェロの彫刻が、動いている。
逆三角形。
厚い胸。
たくましい筋肉。
完璧に修復を施された彫刻。
引き締まっているのに、筋肉がある。
水滴に、朝日が当たる。
拭かせてって言ったのに、拭くのも忘れて、見惚れてしまっている。
あなたは、微笑みながら、見惚れさせてくれる。
見せようと頑張っているのではなくて、あるがままに、見せてくれている。
水滴が、あなたの肌に、弾かれている。
水滴まで、あなたに感じている。
水滴の一筋が、あなたの筋肉を流れた。
あっ。
声が出そうになった。
出ていた。
水滴は、あなたの筋肉の上を流れたのか、私の中を流れたのか、わからなかった。
あの水滴は、私の中から流れた水滴だった。
朝もやの中に、湯気をはらんだサラブレッドみたい。
1か所だけ、彫刻と違うところがある。
ミケランジェロが、こうしなかった理由がわかった。
作品を見てもらえなくなるからだった。