#325 あなたから、金木犀の香りがした
あなたの金木犀の香りが、好き。
今朝、金木犀の香りがした。
今年、一番の金木犀の香りだった。
垣根から、風に乗って、漂ってきた。
私の秋が、始まった。
金木犀の香りを、肺の奥まで味わった。
あなたのことを、思い出した。
あなたが、金木犀の香りのコロンをつけているわけではないのに。
金木犀の香りをかいで、あなたをどうして思い出すんだろう。
あなたといると、香りに気づくようになった。
人工的な香りより、自然のいい香り。
嫌な匂いより、いい香りに、敏感になった。
以前だったら、気づかなかった香りに、気づくようになった。
いい香りが増えたんじゃなくて、いい香りは、前からそこにあっただけ。
私が今まで気づかなかった香りに、やっと気づいた。
あなたは、私の嗅覚を、敏感にしてくれた。
きっと、嗅覚が鈍感だと、嫌な匂いしか感じることができない。
嫌な匂いを多く感じるのは、嗅覚が敏感だからではなくて、鈍感だからに違いない。
もっと嗅覚を敏感に研ぎ澄ませると、いい匂いを感じることができるようになる。
どうして今まで、このいい匂いに気づかなかったんだろうということが、最近、多い。
それは、あなたが、嗅覚を鍛えてくれたから。
思い出した。
今朝の金木犀の香りは、今年一番の香りではなかった。
昨日、あなたの秋物のスーツから、金木犀の香りがしていた。
あなたが、金木犀の林の中を歩いている姿が、見えた。
金木犀の妖精が、あなたに吸い寄せられるのが見えた。
昨日は、ただ幸せな香りに、感じていた。
今朝かいだ金木犀の香りは、あなたの香りだった。
垣根の間から、来たのではなかった。
私の体の中から、秋風にあおられて、立ち上がったのだった。