#331 抱っこ、させて
あなたのヘトヘトが、好き。
ヘトヘトのあなたが、好き。
あなたは、一日中、世界の人々を癒やすために頑張っている。
ベッドに、大の字になって寝ている。
そんなあなたに、ご奉仕できる私は、幸せ。
世界中の人々を癒やしているあなたを、癒やす。
凄いことをしている。
あなたの、たくましい太腿の間が、ご奉仕の場所。
あなたは、眠っている。
眠らせて、あげたい。
寝息が、深い。
海の波のように、どこまでもどこまでも、吐き続ける。
あなたの肺は、いったいどうなってるのかしら。
あなたの1回の呼吸の間に、私は、5回呼吸している。
あなたは、目を閉じている。
まつげが、かすかに動いた。
ごめんなさい、起こしちゃったかな。
唇が、かすかに開いた。
そして、小さく、ささやいた。
「…………」
うん?
私は、耳を近づけた。
あなたが、ささいた。
「抱っこ、させて」
えっ?
「抱っこ、させて」
ごめんなさい。
聞こえてました。
聞こえていたけど、うれしかったから、聞こえないふりをして、もう一度言わせてしまった。
あなたの「抱っこ、させて」が、どんな「愛してる」より、うれしかった。
ヘトヘトの時に、抱っこしたくなる存在でいることが、うれしかった。
ヘトヘトの時は、抱っこしたくなる。
誰でもいいわけじゃない。
癒やされているのは、また私だった。