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#342 お忍びの王子様に

あなたの微笑みが、好き。
電車の中に、王子様が乗ってきた。
夕暮れの電車は、混んでいた。
私は、スマホで音楽を聴いていた。
リストの「愛の夢」。
まるで、その曲に合わせたかのように、王子様が乗ってきた。
まさか、王子様が、電車に乗るなんて。
ひょっとして、お忍び。
お忍びでも、王子様はバレてしまう。
まわりにいる乗客は、お付きの従者たちかな。
ということは、王子様の一向に、紛れ込んでしまったのは、私のほうだったのかもしれない。
王子様、お許し下さい。
知らなかったのです。
でも、せめて、この瞬間の幸せを味わわせて下さい。
パープルの入ったライト・ネイビーのダブルのスーツ。
チーフは、白のTVホールド。
その中には、ダブルのベスト。
シャツは、ハイカラーのイングリッシュ・タブ。
ネクタイは、ターコイズ・ブルーの細身のネクタイ。
コートは、カシミアの黒のチェスターフィールド。
帽子は、黒のボルサリーノ。
王子様、こんなにオシャレだと、お忍びにはなりません。
でも、王子様にとっては、これはお忍びですね。
私は、大胆なことをしてしまった。
スマホに、お手紙を書いた。
そして、王子様に、そっと差し出した。
王子様は、「何?」という顔で、のぞき込んで、すぐ読んでくれた。
そして、にっこり微笑んでくれた。
【スーツの色が、素敵ですね。
ネクタイの色も、素敵です。】
まわりのSPが、目をつぶって、私の直訴を見逃してくれた。
電車が、駅に着いた。
王子様が、降りた。
降りる瞬間、もう一度、私に微笑みを下さった。



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