#350 天使の分の入場券
あなたと、美術館に行くのが好き。
チケット売り場から、入り口までのあなたが好き。
チケットを、買ってくれる。
「はい」と私にチケットを渡してくれる。
そして、1、2、3、4、5歩。
入り口まで来て、あなたが立ち止まる。
スーツのズボンのポケットに手を入れる。
ジャケットに手を入れる。
ベストのポケットに、手を入れる。
私を、振り返って、ニッコリ。
その顔が、子供みたいで好き。
チケット売り場から、入り口までの5歩の間に、入場券をどこにしまったか、わからなくなるあなた。
あなたにとって、美術館は、テレパシーの嵐。
あまたの美術品が、あなたにテレパシーを送ってくる。
入場券どころの騒ぎではない。
「また、やっちゃった」と、ウインクする。
子供の顔が、好き。
5歩戻って、もう1枚、入場券を買う。
売り場の美人お姉さんも、笑っている。
前も、この美術館で、同じことをしたので、覚えられている。
2枚目の入場券を買って、中に入る。
もうそこからは、あなたのテレパシー・ワールド。
スイスイ歩いているようだけど、あなたの頭の中には、映像が早送りで流れている。
誰かと、話している。
あなたにしか聴くことができないイヤホンガイドで、聴いている。
美術品が、待ってましたと、あなたに話しかけてくる。
1人の知的な美人が、あなたに話しかけた。
テレビの美術番組で、見たことがある。
有名な学芸員さんだった。
こういうことが、よくある。
「お知り合い?」って、聞くと、いつも初対面。
学芸員さんは、テレパシーで話している人に気づく。
「あっ」
あなたが、笑って振り向く。
1枚目のチケットが、ポケットから普通に出てくる。
あなたが一緒に見ている、美術の天使の分のチケット。
私のお気に入りのお土産に、今日も1枚追加。