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#362 話しかけられる、あなた

あなたの女性への接し方が好き。
あなたと美術館に行くと、不思議なことが起こる。
あなたといると、美術館だけではなくて、どこに行っても、不思議なことが起こる。
あなたは、平然としている。
不思議なことと、感じていない。
不思議なことが、あなたには、日常なのね。
あなたが展示室に入ると、空気が変わる。
最初、芸術品が、空気を変えているのかと思った。
あなたが、芸術品を見つめる。
すると、芸術品が、あなたを見返す。
あなたが芸術品を見ているというより、芸術品があなたを見ている。
やがて、芸術品が、あなたに負けてしまう。
戦いを挑んでいるのでない。
剣豪が、力を認め合う感じ。
絵画も、彫刻も、工芸品も。
まわりのお客様も、芸術品を眺めるふりをして、あなたを眺めている。
あなたを眺めるのに、美術館は最適な場所。
監視している美術館スタッフまで、あなたをこっそり見ている。
ふだんはキリッとクールなのに、女の子の顔になっている。
別のスタッフの人が通りかかった。
監視のスタッフとは違う役割であることが、ひと目で分かった。
この美術展を企画したカリスマ・キュレーターの女性だった。
テレビの美術番組で、見たことがあった。
あなたに耳打ちをしようとすると、その女性が、あなたに話しかけた。
あなたは、自然に言葉を返した。
なんだ、知り合いだったのね。
キュレーターが、来館者に話しかけることはない。
さすが。
しばらく話しながら一緒に展示を見た、彼女は会釈をして、離れた。
私にも、会釈をしてくれた。
「さすが、知り合いだったのね」
「ううん、初対面だよ」
こういうことが多い。
こういうことは、その後、様々な美術館で、経験することになった。
そのたびに、私は、感じてしまった。



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