#366 書道展で、抱いて
あなたの、字を見る時の姿が好き。
あなたと、美術館でお茶。
お茶をする時でも、ミュージアム・カフェにするところが、あなたの王子なところ。
美術館は、ちょうど、大きな企画展が終わったところで、静か。
この間まで、あんなに行列だったのが嘘のよう。
「入ろう」
書道展をしていた。
縁もゆかりもない展覧会にも、まるで関係者のように入っていくあなたが好き。
大きな会場に、天井から、書道の作品がずらりと並んでいる。
かなり前に書き上げられた作品のはずなのに、まだ墨の香りがする。
和紙の匂いもする。
書く時に焚いたのか、お香の香りもする。
どこまでも、どこまでも、ブースが続いている。
来場者は、少ない。
書道の森に、2人だけで、迷い込んだみたいになる。
それだけで、わくわくする。
この中で、愛し合っても、誰にも気づかれない。
そういう場所にいるだけで、しているのと、同じ。
奥まで行って、戻ってくる。
これで半分。
やっと、元のところに来たと思ったら、また次の部屋があった。
これで終わりかと思ったら、まだまだ4分の1に過ぎなかった。
これって。
あなたに愛されている時の、私の感じ方と同じ。
もう終わりかと持ったら、まだまだ先に、部屋がある。
私の体の中の部屋。
あなたは、楽しみながら、書道の森を歩いている。
時々、止まる。
あなたは、字を見ながら、書き手になって、字を書いている。
あなたの体が、作品の字を書き上げている。
あなたは、字を見る時も、踊っている。
あなたの息遣いが、まるでダンサーのように、深くなっている。
やっぱり、書道展の中で、あなたに抱かれているのね。