#373 ワルい男に、惹かれる
あなたの、絵の解説を聞くのが、好き。
展覧会に行った。
あなたと展覧会に行くのも好きだけど、1人で行くのも好き。
一度、行ったことがある展覧会だった。
あなたのお話を聞くまで、見たつもりでいた。
あなたのお話を聞いて、見たつもりで何も見ていなかったことに気づいた。
あなたの解説が、心のイヤホンガイドで聞こえてくる。
あなたが、後ろから抱きしめながら、耳元で物語を解説してくれる。
美術館のイヤホンガイドは、あなたがすればいいのに、といつも思ってしまう。
あなたは、絵の中に生きている。
そんな風に、絵の中に生きていたら、どんなに楽しいことだろう。
そんなあなたに、絵の中に連れて行ってもらえる私は、幸せ。
絵を見る時、作者の顔を見るのが好き。
美の巨人たちは、どうしてこんなにいい男が多いのだろう。
巨匠でなかったとしても、かっこいい。
男性として、かっこいい。
誰を見ても、あなたに見えてしまう。
こんなにかっこいい男性のモデルになる女性は、どんな気持ちだったろう。
モデルになりながら、精神的に、抱かれていたに違いない。
実際にも、抱かれていたに、違いない。
画家は、モデルを抱くように見つめる。
モデルは、画家に、見られながら、抱かれている。
でなければ、こんな表情は、見せない。
富豪の依頼で、夫人が描かれることも多い。
人妻は、抱かれていたに、違いない。
ある画家は、独身でありながら、14人の子供がいた。
ということは、それ以上の女性を愛したということだ。
それくらいでなければ、絵を描くことはできない。
世間的には、ワルい男ということになる。
男の子は「あいつは、ワルい男だから」と、女性に警告する。
男の子たちは、女性がワルい男に惹(ひ)かれることに、気づいていないのだ。
美術館の中には、セクシーな空気が漂っていた。
振り返ると……。