#378 テムズ河畔のあなた
あなたのタイムマシンが、好き。
あなたと山の上にある美術館を訪れた。
大正時代に造られた富豪の別荘が、美術館として残っている。
イギリス「チューダー様式」。
ハーフティンバーのファザードが、シェークスピアの劇場を思わせた。
ゲートを潜るところから、そこはもうイギリスだった。
館の主が、イギリス留学時代に見たウィンザーのたたずまいを再現していた。
入り口の扉を、あなたが開けてくれた。
あなたはもはや、この別荘の主の気配だった。
結界のトンネルをくぐって、長いスロープを歩いているところから、あなたに主が乗り移っていた。
主なき後は、主の親友の富豪が引き継いで、自分のサポートした陶芸家の作品を展示する美術館にしていた。
主も、主の親友も、親友にサポートされた陶芸家も、20歳代で出会っていたという話をあなたがしてくれた。
あなたの説明は、ガイドの説明ではない。
あなたの説明は、いつも思い出話だ。
「昔、こんな事があってね」という話し方だ。
私は、あなた自身の体験談のように、絵が見える。
これは、紀元1世紀のシリアのパルミラのレリーフ。
これは、後漢の画像石。
これは、姫路城の石垣に使われている竜山石。
主のあなたが自宅を説明してくれる。
2階に上がる。
「あのスペースに楽団を入れて、ここでダンスを踊ったんだよ」と教えてくれる。
かつての夫婦の寝室が、今はカフェになっている。
混んでいるはずのテラスの席に、案内された。
テラスから、3つの川が合流する景色が見えた。
主が見たテムズ川の流れの風景だった。
紅茶を飲みながら、あなたを振り返った。
ティーカップを持ちながら、テムズ川の風景を眺める主がそこにいた。