#382 いつまでも、着かないで
あなたと一緒に、歩くのが好き。
あなたと、夜の公園を歩く。
道に、灯籠が続いている。
飛行機の滑走路のように、続いている。
滑走路と違うところは、曲がりくねっているところ。
曲がりながら、違う世界に連れて行かれそうになる。
連れて行かれたくなる。
地面を歩いているのではなく、空中を浮かんでいる感じがする。
暗さに、目が慣れてくる。
あなたと、手をつなぐ。
見えなくても、あなたの手の位置が、わかる。
あなたも、わかってくれる。
あなたの手は、いつも無重力。
あなたと手をつなぐだけで、私の体も無重力になる。
初めての場所。
あなたも、初めてらしい。
なのに、はじめての場所でも、あなたはまるで自分のお城のお庭を歩いているみたい。
勝手知ったる我が家のように、あなたは歩いていく。
さっきまで、都会のど真ん中にいたのに。
高層ビルも、見えない。
見えるのは、夜の空と、月だけ。
月が、強い。
大きいというより、強い。
このまま、どこまでも歩いていきたい。
どこかに行くために歩いているのではないのが、いい。
あなたは、歩いていることを、楽しんでいる。
一緒に歩いているのが楽しいところが、幸せ。
今、どこにいるのかは、どうでもいい。
むしろ、忘れさせてほしい。
これから、どこに行くのかも、どうでもいい。
むしろ、永遠に着かないほうがいい。
あなたと、こうして歩いているのが、好き。