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#390 静かなのに、荒々しい

あなたの静かさが好き。
あなたと、温泉。
食事のあと、もう一度、お風呂に行く。
今度は、露天風呂。
違うお風呂に入れるのが、贅沢。
岩風呂は、茶褐色の金泉。
露天風呂は、炭酸泉の銀泉。
体に、炭酸の泡が貼り付いてくる。
シャンパンの中に、いる気分。
窓の向こうに、竹林が見える。
ライトだと思っていたものは、月だった。
夜の闇の中に、竹林が、月の光だけで浮かび上がる。
物音ひとつしない。
お部屋に戻ると、お布団が敷かれていた。
あなたのお布団と、くっつける。
お布団に、大の字になる。
畳の部屋で寝るのって、なんて気持ちいいんだろう。
静か。
いつもは気にもとめない、ふすまの向こうの冷蔵庫の音が聞こえる。
それくらい、静か。
冷蔵庫の音が、止まった。
あなたが、コンセントを外してくれた。
かすかな音が消えて、ますます静かになった。
都会の静かさと、深さが違う。
奥の深い静かさだ。
音がない静かさではなくて、ブラックホールのように吸い込まれていく静かさだ。
お正月に展覧会で見た水墨画が、浮かんできた。
長谷川等伯の「松林図屏風」。
静かなのに、荒々しい。
荒々しいのに、静か。
吸い込まれる静かさは、あなただった。



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