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#391 優しく、巻かれて

あなたの傘の巻き方が好き。
雨が、やんだ。
あなたは、傘を畳んで歩いた。
すれ違った女の子が、ささやくのが聞こえた。
「ステッキを持った紳士と、すれ違った」
ステッキ?
大笑いしそうになる口を押さえるのが、精一杯だった。
女の子といっても、子供ではない。
振り返って見ている2人組の女性は、大人の女性だった。
まだ、うっとり見ている。
あなたの傘が、あまりにも細く巻かれているので、ステッキに見えた。
それだけじゃない。
巻いた傘がステッキに見えたのは、あなたが紳士だったから。
イリュージョンを見せてくれるマジシャンに見える。
マジシャンを通り越して、魔法使いに見える。
あなたは、このステッキを使って、魔法をかける。
雨上がりの街が、ほこりを洗い流されて奇麗。
それも、あなたのステッキの魔法。
このステッキは、あなた自身。
芯が真っすぐ通っていて、スリム。
剣を持った敵が現れても、ステッキで撃退してくれる。
銃を持った敵でも。
映画『キングスマン』で、主人公がステッキで戦う場面が好き。
あなただと思って見ていた。
あなたが、こんなに奇麗に傘を畳んで巻く瞬間を見逃した。
頭の中で、プレーバックした。
傘が、あなたにエスコートされて、巻かれている。
あなたに巻かれる傘が、うっとりしている。
あなたに巻かれる傘になりたい。
キュッとしてあげた時、私の中が、キュッとなった。
傘と同時に、私も、巻かれて、いった。



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