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#414 あなたがあおぐ扇子になりたい

あなたの扇子の、あおぎ方が好き。
今日も、猛暑日。
隣のあなたは、外にいても、涼しげな顔をしている。
私一人、汗をかいている。
ふと、心地いい風が吹いてきた。
ああ、涼しい。
一気に、涼しくなった感じ。
クーラーの利いている部屋に入ったわけでもないのに、そんな感じ。
急に、温度が下がったのかしら。
涼しくなったわね、とあなたに言おうとして、気づいた。
ふと吹いてきた涼しい風は、あなたが扇子であおいでくれたから。
左に座る私に、あなたは右手で、扇子をあおぐ。
あなたの扇子から生まれた、涼やかな風が、あなたを通して、私のほうに吹いてくる。
自分のためにあおいでいるというより、私のためにあおいでくれている。
あなたを通して来る風なので、心地いい。
まるで、竹の林の間を通り抜けてきた風のような爽やかさ。
あなたが、いつ扇子を出して、あおぎ始めたのか、まったく気づかなかった。
私だったら、「暑い、暑い」って、暑そうにあおいでしまう。
あなたは、扇子をあおぐ時も、暑そうにあおがない。
あなたの手は、扇子をあおいでいない。
扇子が、勝手に動いている。
扇子に、あなたの手がつながっているだけ。
また、魔法で、風を起こしている。
扇子は、飾りに違いない。
あなたは、魔法で、私を涼やかにしてくれている。
すっかり、涼しくなった。
さっきまでのザワザワした気分が、消えた。
ザワザワしていたので、余計に暑かったに違いない。
あなたに持ってもらっている扇子が、気持ちよさそう。
扇子まで、うっとりさせるの。
あなたがあおぐ扇子になりたい。



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