#421 クルクルクルを、味わわせて
あなたのダンスが好き。
いつか、ダンスを習いたいと思っていた。
でも、習わなくて、大丈夫だった。
あなたと、出会ったから。
あなたが、私を踊らせてくれる。
あなたと、初めて待ち合わせた時、握手した。
気がつくと、腕を組んで、歩いていた。
「腕、組みましょう」という言葉もなかった。
もちろん、「組んでいいですか」なんていう野暮な言葉もなかった。
引っ張れることもなかった。
カフェの椅子から立ち上がった時には、腕を組んで歩いていた。
隣の席にいた かわいい女の子が、私を見た。
うらやましそうに、見た。
「もう長年、付き合っているカップルなんだろうな」と思ったに違いない。
かわいい彼女のところまで行って、言いたかった。
「今日、初めて会ったばかりなの」って。
きっと、信じてもらえない。
だって、自分でも、信じられないから。
前に会ったのは、ちらっとだけ。
だから、今日は、ほとんど、初回。
レストランに行った。
食事が終わった。
あなたが、立ち上がった。
化粧室かなと思ったら、あなたが私に両手を差し出した。
私は、魔法にかかったように、両手をあなたの手のひらに載せた。
自然に。
気がつくと、世界が回った。
酔っ払ったんじゃない。
あなたが、私を踊らせていた。
ここは、どこ?
あなたが、私を見つめていた。
あなたの後ろで、レストランの壁が回っていた。
私は、スピンターンを踊っていた。
「習ったこともないのよ」と、また隣のテーブルの女の子に、説明したかった。
クルクルクル。
私は、ダンスをしたかったんじゃなかった。
このクルクルクルを、味わいたかったの。