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#423 もうすぐ、彼女が振り返る

あなたの「ホテルマンぶり」が好き。
あなたと、一流ホテルに行った。
5つ星ホテル。
あなたは、いつものように、まるで我が家のように、くつろいでいる。
横柄でなく、卑屈でもない。
ほとんどの男性は、緊張のあまり、横柄か卑屈になる。
あなたは、横柄と卑屈の間の1ミリの糸の上を、悠々と歩く。
あなたと一流ホテルに行く楽しみがある。
もうすぐ、起こるはず。
ほら。
エレベーターの中。
あなたは、すっと立っている。
あなたと一緒の鏡に映る自分を見るのが、恥ずかしくなる。
美人が、乗り込んできた。
「クラブラウンジ・フロア、お願いします」
美人が、言った。
あなたは、ほほ笑んで、クラブラウンジ階のボタンを押した。
降りて、ドアが締まりかけた時、美人は気づいた。
たった今、ボタンを押してくれたのが、ホテルのスタッフではないことを。
一流ホテルでも、きちんとスーツを着こなしているゲストは、少ない。
かろうじて「着ている」人はいるけど、「着こなしている」人は皆無。
あなたが、ホテルマンに見えるのは、仕方がない。
でも、もうちょっと見ると、分かるはず。
こんなカッコいいホテルマンは、ファイブスターのホテルでも、なかなかいないはず。
間違えられても、否定しないで、ホテルマンを演じるあなたが、好き。
一度や二度ではない。
毎回、間違えられている。
この間は、ホテルマンに、「お疲れ様です」と声をかけられた。
ホテルマンは、仲間のスタッフだと思い込んでいた。
エレベーターを降りたあと、数歩進んで、美人が振り返った。
あなたは、彼女にニッコリほほ笑んだ。
彼女の頬が、少し赤くなったのは、間違いを照れたのではなかった。
こういうのを見ると、高ぶる。



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