#425 大理石のように、柔らかく
あなたの大理石のような、たくましさと柔らかさが、好き。
彫刻が好き。
美術館に行くと、彫刻に引き寄せられる。
ローマのボルゲーゼ美術館に、あなたと行った。
名門貴族ボルゲーゼ家の邸宅と所蔵品が、そのまま国立美術館になるところが、イタリア文化の奥深さを感じる。
1体の彫刻に、目を奪われた。
ベルニーニの《プロセルピーナの略奪》。
全体より、部分から、目が離れなくなった。
冥界の王・プルートが、姪のプロセルピーナを奪うモチーフ。
プロセルピーナの太ももに食い込んだ、プルートの指を見てしまう。
逆か。
プルートの指が食い込んだプロセルピーナの太ももの弾力に、ため息が漏れる。
これが大理石とは、信じられない。
略奪は、不道徳なこと。
私の中には、いつも略奪されることを望んでいる私がいる。
全体を見れば、抵抗している。
抵抗は、男性に対してではない。
略奪される誘惑に負けそうになっている自分に、抵抗している。
プロセルピーナの体のねじりは、自分の葛藤。
プルートの指が、プロセルピーナの太ももをつかんでいるのではない。
プロセルピーナの太ももが、プルートの指をつかんでいるのだ。
むしろ、離れなくなっているのは、プルートの指のほうだ。
全力で、抵抗しているのは、プロセルピーナ。
全力で抵抗されることで、ますますプルートの抱きしめる力は、強くなる。
イニシアチブは、プルートにではなく、プロセルピーナにある。
プロセルピーナの太ももに、憧れた。
私も、太ももで、あなたの指を、離せなくしたい。
あなたは、私を略奪してくれる。
圧倒的な力で、私をねじ伏せて、どこかに連れて行ってくれる。
大理石のたくましさと、大理石の柔らかさで、私を抱きしめてくれる。