#429 あなたに、譲られたい
あなたの席の譲り方が、好き。
駅から離れたところにある美術館に、あなたと行った。
郊外の美術館は、スペースが広いのがいい。
かなりの歩数を歩いた。
アップダウンもあった。
あなたと一緒だと、楽しい。
美術館を出る時、タクシー乗り場には、タクシーはいなかった。
電話して駅から来てもらうとしたら、時間がかかりそうだった。
ちょうど、1台のバスがやってきた。
1時間に1本しかないバスが、ちょうどやってくるなんて。
あなたには、神様がいつも、こういうことを手配してくれる。
乗り合いバスは、意外にも、混んでいた。
空いている席に、離れ離れで、なんとかぎりぎり座れた。
バスが出そうになる時、急ブレーキがかかって、3人が乗ってきた。
似ているから、おばあちゃんの娘、そして、その娘に違いない。
誰かが、おばあちゃんに「座られますか」と勧めた。
おばあちゃんは、丁寧に辞退した。
次の瞬間、あなたが立っていた。
おばあちゃんは、エスコートされるように、座った。
さっきは、辞退したのに、あなただと座ってしまう。
席を譲るということより、譲り方の紳士さに、うっとりした。
おばあちゃんが、髪をなでていた。
二度見、してしまった。
さっきまで、普通のおばあちゃんだった人が、急に奇麗に見えた。
魔法使いが、変身しているみたいだった。
3人は、そろって、美人だった。
3人は、似ているのではないと感じた。
この3人は、おばあちゃんと、若返っている分身の3人なのだ。
あなたのエスコートが、おばあちゃんを若返らせたのだった。