#437 お庭を歩くと、高ぶる
あなたの、大名庭園の歩き方が好き。
あなたと大名庭園に行った。
「江戸時代、江戸は、世界に冠たる空前の庭園都市だった」
あなたは、教えてくれた。
新たに城を築くことを禁じられた大名は、庭園を造ることで、競い合った。
江戸の半分が、大名庭園となった。
大名は、水を誇った。
池泉回遊式庭園。
心字池の周りを回る。
あなたは、心字池が似合う。
まるで、お殿様のように歩く。
近景・中景・遠景・超遠景が楽しめる。
そんなに広いはずはないのに、無限の自然の中を歩いている気がする。
景色が、顔を上げるたびに、変わる。
足元の石畳が、不規則に並ぶ。
必然的に、足元を見る。
逆バリアフリー。
そして顔を上げると、また景色が変わっている。
これは、音楽の構成。
短いフレーズなのに、どんどん違う曲想を響かせてくれる。
わざと、早く歩けないように出来ている。
そういうところが、あなたの愛し方に似ている。
心字池が、女性のように見えてきた。
あなたは、心字池の全身を、あらゆる角度から、愛(め)でている。
大名庭園は、平安王朝への憧憬から築かれた。
この大名庭園は、平安王朝の上を行く中国王朝をモデルに造られている。
大名は、ここで、常在戦場の意識で、弓馬の訓練をした。
大名は、きっと精神的にギリギリのところにいたに違いない。
庭園は、そんな大名に、瞑想の場を与え、活力を生み出したに違いない。
「あの方は、家斉様のように慕われます。庭園で活力を得られたおかげで、53人のお子様に恵まれました」
庭園の管理をしている庭師のおじさんが、私に教えてくれた。
たしかに、お庭を歩いていると、なぜかそういう気分が高まってきた。