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#452 口説かないのに、口説かれている

あなたの、美術のお話が好き。
あなたの美術のお話は、どんな官能小説より、セクシー。
エッチな話はひと言もしていないのに、すごくエッチな話をしている気分になる。
レストランで、あなたの美術のお話を聞く。
個室じゃないから、「隣の女の子に聞かれたら、大変」とドキドキする。
でも、エッチな話をしているのではなくて、美術のお話をしているだけ。
なんで、こんなにドキドキするのかしら。
あなたは、ガス入りのミネラルウオーター。
私も、お付き合いする。
ミネラルウオーターなのに、酔った気分になる。
炭酸の泡で、スパークリングワインを飲んでいる気分になる。
あなたは、ミネラルウオーターを飲む時も、あたかもシャンパンを飲むようにエレガント。
隣に大勢いるカウンターの席なのに、まるで、ベッドでお話をしている気分になる。
時々、確認する。
今、私がいるのは、ベッドでないことを。
愛の言葉を、ささやかれているわけでもない。
遠くの席の男性が、見る見る酔っていく。
酔うほどに、ふだん言えない口説きぜりふに変わっていく。
その男が、口説きぜりふを言うたびに、一緒にいる女性が不機嫌になっていく。
男は、そのことに気づいていない。
そんな男と、おしゃれなお店に来てしまった自分を反省して、学習するしかないと、彼女が心の中で、唱えているのが聞こえる。
離れた席の彼女は、テレパシーであなたの話に、耳を傾けている。
カウンターの隣の女の子も、女の子同士で話しているふりをしながら、あなたの美術の話を聞いている。
ひと言も、シモネタを話さない。
なのに、セクシー。
ひと言も、口説きぜりふを言わない。
なのに、エッチな気分。
そして、最後まで、口説きニュアンスのある言葉を言わないで、さっと帰る。
向こうの男は、最後のトドメで、また口説きぜりふを言って、引かれていた。
何も言われず、次回の約束もないのに、たっぷりエクスタシーを感じている私。



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