#453 浴衣の帯を、締めるように
あなたの、浴衣の帯の締め方が、好き。
あなたが、浴衣に着替える。
さりげない。
着慣れている。
頭の中で、何か別の世界を漂いながら、浴衣に着替える。
羽織り方が、セクシー。
何よりも、セクシーなのは、帯を結ぶ瞬間。
女性がどんなに頑張っても、あなたの帯を結ぶ瞬間のセクシーさに、かなわない。
見とれていた。
あなたが、ほほ笑んだ。
私が、あなたの帯の結び方に見とれていることに、気づかれてしまった。
きっと、私は、口を半開きにしていた。
目は、とろんとなって、恍惚(こうこつ)の表情になっていた。
「家の子だからね」
「家の子」という表現が、品がある。
あなたの家は、お染物屋さん。
浴衣を、扱っている。
子供の時から、浴衣の中で育っている。
お父様が、浴衣を着るところを、小さい頃から見て、覚えたに違いない。
教室で教わるのとは、違う。
家の習慣として、身に着いているのが分かる。
歌舞伎役者の楽屋の浴衣が、セクシー。
出来上がりではなく、着る瞬間を見ることができるのが、「家の子」の特権。
だらしない着方をしていると、お母様に叱られたに違いない。
息子は、父親の格好いい浴衣の着方を見て育つ。
タキシードに格好いい着方があるように、浴衣にも、セクシーな着方がある。
素材がシンプルなだけに、タキシードより、差がつきやすい。
あなたの帯が、腰骨の下に、ピッタリと収まる。
無造作なのに、完成している。
浴衣を整えたあと、あなたの優しい手が、そっと腰骨の下に添えられる。
背筋が伸び、深い呼吸が、鼻筋を通っていくのが、分かる。
今、あなたが締めたのは浴衣の帯ではなく、私の心だった。