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#454 少女は、気づく

あなたを見る、少女の目が好き。
あなたと、列車に乗る。
最近のJRの観光列車は、芸術的だ。
鉄の象徴である列車に、デザイナー・水戸岡鋭治さんは、木のぬくもりを与えた。
鉄の冷たさではなく、木の優しさを、感じる。
手すりにも、床にも。
何よりも、木の世界の中に、あなたがまた似合いすぎる。
窓の外を見なければ、あなたは、藤原時代の牛車に乗る貴族のように見える。
1000年前に、平気でタイムスリップしてしまう。
他の乗客は、窓の景色よりも、木の列車を味わっている。
私は、木の列車よりも、あなたを味わっている。
乗客の空気が温かいのは、高い倍率の抽選を勝ち抜いて、憧れの観光列車に乗れたからだけではない。
木から、優しさをもらっているからだ。
列車は、優しい空気を運んでいる。
乗っている人たちが、ほほ笑んでいる。
客室乗務員さんも、車掌というより、テーマパークの美人のお姉さんのような親しみがある。
この仕事を、楽しんでいる。
名所の滝があるところでは、滝の名前の字を、自分で筆で書いたパネルで説明してくれる。
活字ではなく、自分の手書きであるところが、温かい。
珍しい形の山では、昔からの言い伝えを物語で話してくれる。
「列車内を、どうぞ散策してください」
普通は、「危ないので、動かないでください」と言うところなのに。
5歳くらいの女の子が、走ってきた。
通路際に座るあなたのところで、ピタリと止まった。
景色ではなく、あなたを見ていた。
走って、戻った。
すぐ、もう1人の同い年くらいの女の子が走ってきて、あなたのところで止まって、あなたを見た。
きっと、さっきの女の子が、「貴族がいる」と気づいて、教えたのだ。
あとから来た子が、走って戻った。
「気をつけて」
あなたが、振り返った。
興奮した女の子が、通路で転んだ。
あなたは、どうして転ぶことに気づいたんだろう。
木の床のおかげで、女の子はケガをしないで、すんだ。
転んだ女の子は、痛さより、照れくささで、あなたを振り返った。
あなたが、女の子に、ほほ笑んだ。
女の子は、大人の女の顔で、赤くなった。



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