#459 スプーンで、優しく
あなたがコーヒーを入れる時の、スプーンの持ち方が好き。
あなたが、インスタントコーヒーを作る。
あなたが作ると、ただのインスタントコーヒーでなくなる。
レギュラーコーヒーを、ドリップで入れるなら、おいしいに決まっている。
あなたの入れるコーヒーは、インスタントなのに、おいしい。
コーヒーが、おいしいのではない。
レギュラーコーヒーでも、インスタントコーヒーでも、差がない。
あなたが、入れると、おいしい。
していることは、至ってシンプル。
カップにお湯を入れて、粉末を入れて、混ぜるだけ。
なのに、どうしてこんなに、おいしくなるのだろう。
私も同じインスタントコーヒーを買って、自分で入れてみた。
違った。
同じものなのに、違う。
あなたは、どんな魔法をかけているのだろう。
あなたは、一流のマジシャン。
一流のマジシャンは、マジックをしている そぶりすら見せない。
普通のことを、普通にしている。
最初は、もともとおいしいしいコーヒーを、あなたが知っていたと考えた。
自分で実験して分かった。
原料は、関係なかった。
どこが違うのか。
こっそり、見た。
あなたは、見られていることに、気づいている。
それでも、見せてくれる。
カップに、お湯を注ぐ。
「そのカップを見せて」と、マジックを見る観客になっている。
見せてくれる時は、そこには種がないということだ。
お湯を注ぐ。
粉末を、入れる。
スプーンで、混ぜる。
インスタントコーヒーを入れる人は、誰もがしていること。
ひょっとして。
スプーンを引き上げる瞬間、コーヒーの中から、スプーンが優しそうに、上がってきた。
この瞬間に、あなたはコーヒーに、魔法をかけていた。
キスをして、離れる時の魔法を、思い出した。