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#462 作品が、話しかけてくる

あなたの美術館の見方が、好き。
あなたと、美術館に行った。
混んでいた。
あなたは、スイスイ歩く。
混んでいるから、パスしているのではない。
じっくり見ている人より、じっくり見ている。
解説を見る時間より、作品を読む時間が長い。
長く専門的な細かい解説を、一瞬で読んでしまう。
あまりに速いので、読んでないのかと思ったら、「へぇー」と感心していたりする。
サラリと通り過ぎたから、その作品には興味がなかったのかと思ったら、「あれは、面白かったね」と、笑う。
しっかり見ている。
事細かく、面白さを教えてくれる。
東京と京都の、離れたところである別々の展覧会が、つながっていることを、話してくれる。
あなたの中では、全てが1つの展覧会。
展覧会に見に行く感じでは、もはやない。
自分が美術館に預けた作品を、味わいに行っている感覚。
スイスイ歩きながら、あなたの唇が、かすかに動いている。
ささやいている。
最初、私に何か言ってるのかなと思った。
違った。
誰と、話しているの。
あなたは、作品と、話していた。
あなたが、作品に話しかける。
作品が、あなたに、長年の恋人のように話しかける。
まるで、パーティーのように、あなたは話しかけられ、話しかけている。
親しげに。
「へぇー、そうなの」と、あなたは笑っている。
あなたは、展覧会に、見に行ってない。
話に、行っている。
作品と。
私は、黙って、笑っている。
あなたと作品のお話を聞くのが、好きだから。



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