#465 音楽になって、存在が消える
あなたの音楽の聴き方が、好き。
あなたと、クラシックのコンサートに行った。
素晴らしい音楽だった。
素晴らしい指揮。
素晴らしい演奏。
あまりの心地よさに、あなたの向こう側の席の人は、眠ってしまっていた。
それも、クラシックの効果だから、仕方がない。
あなたは。
聴いているあなたは、不思議な感覚だった。
それは、もはや聴いているという感じではなかった。
演奏しているようでもあり。
指揮をしているようでもあり。
作曲者のようでもあり。
素晴らしい音楽を聴きながら、あなたは、一体化していた。
作曲家と一体化。
演奏家と一体化。
指揮者と一体化。
音楽そのものと一体化。
聴いているのではなく、一体化していた。
あなた自身が、音楽になっていた。
あなたの存在自身が、消えていた。
私の隣に、ブリティッシュのスーツを着て、イギリス紳士の姿勢で、音楽がゆったりと腰をかけていた。
私は、目を閉じた。
私は、まだ音楽を聴こうとしていた。
聴こうとしているうちは、一体化できない。
作戦を思いついた。
あなたに、一体化すればいい。
これは、得意。
音楽になっているあなたに一体化していくことで、私自身の存在も溶けていくのを感じた。