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#466 字と、踊る

あなたの書の見方が、好き。
あなたと、展覧会に行った。
人気の展覧会の隣で、人影がまばらな展示コーナーがあった。
書道展だった。
あなたは、すーっと入っていった。
中に入ると、思いのほか、広かった。
どこまでも、文字が並んでいた。
そこは、文字の森だった。
あなたは、文字の森の中を、歩き、時々、立ち止まり、奥へ奥へと進んでいった。
文字の森の奥は、どこまでも続いていた。
ひょっとしたら、現実世界へ戻れなくなるのではないかと心配になるくらいの迷宮だった。
ここで終わりかなと思うと、また細い通路から、別の大きなスペースへ、つながっていった。
これだけ、文字に囲まれていると、トランス状態になってくる。
文字が、紙から離れて、浮かび上がってくる。
紙の存在が消えて、文字だけが、空中に浮かんでいる。
あなたが、ある書の前で、立ち止まった。
その書が、あなたに向かって、浮かび始めた。
文字が、浮いてる。
私は、浮かび上がっている文字を、横からのぞき込んだ。
そういう手法の新しい書道なんだな。
違った。
横からのぞき込むと、文字は、立体ではなかった。
なのに、正面から見ると、文字があなたに向かって、浮かび上がっている。
あなたはというと。
あなたの全身が、その文字を描いていた。
あなたの手の先が筆になり、その文字を描いていた。
文字を描いているというより、ダンスを踊っているようだった。
時代劇の立ち回りをしているようでもあった。
書き終えると、あなたは、ふーっと長い息を吐いて、呼吸を整えた。
まさに、立ち回りで20人ぐらい斬ったあとの、剣豪の気配が漂っていた。



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