#474 テレパシーで、話しかけて
あなたのテレパシーの話しかけが、好き。
あなたと、テイクアウトのカフェに入った。
ソイラテを持ち帰って、一緒に飲むのが、好き。
「バッグに、入れてください」
あなたが、言った。
いつもは、手持ちなのに、珍しい。
ソイラテを作る間、持ち帰り用の紙袋が、レジの横に置かれていた。
あなたが、紙袋を眺めていた。
あっ、なにか、美しいものがある。
あなたの目線の先には、いつも美しいものがある。
美しいものに出合いたければ、あなたの目線の先を追っていくのがいい。
春のシーズンの紙袋には、桜の花びらが描かれていた。
私は、「奇麗」と、ささやきそうになるのを、こらえる。
あなたが、紙袋と、テレパシーで会話している。
あなたと紙袋の会話の邪魔をしてはいけない。
あなたの声が聞こえてきた。
(余白を入れると、いいね)
それは、決して、声には出ていない。
表情も、優しい。
責めているわけでもない。
どうしたらもっと、美しくなるかを考えてあげている。
紙袋の桜の花びらは、一面に描かれていた。
(デザインしたのは、外国の人かな。日本人のデザイナーだと、余白を入れるね)
なるほど。
あなたは、黙っている。
あなたは、もっとこうしたほうがいいと分かっていても、口に出さない。
テレパシーで、伝える。
テレパシーが伝わる人にだけ、伝わる仕組み。
ただ、優しく、ほほ笑んでいる。
(日本人のデザイナーが描いた案に、外国人の上司が、描き加えたのかもしれないね)
あなたは、紙袋に優しい。
その紙袋に、2つのソイラテを入れて、あなたは桜の紙袋を、優しく抱き上げた。