#479 フロントローのキャストとして
あなたの足の組み方が、好き。 あなたと、ファッションショーに行く。
受付のスタッフが、席に案内してくれる。
中に入ると、キャットウォークの先端に、テレビカメラとファッション紙のカメラマンが、押し寄せている。
室内は、照明を落としている。
スピーカーの重低音が、響く。
これから始まるショーの気分を高める。
あなたは、腰を低く、かつ堂々としている。
「こちらに、どうぞ」
席は、指定されている。
「このあたり」ではなく、見えない指定席が、主催者によってアレンジされている。
キャットウォークを挟んで向かい側には、各国の大使が、夫人同伴で着席している。
会釈する。
私が、化粧室から戻ると、フロントローにあなたが、一番に見えた。
その瞬間、あなたがなぜフロントローに座っているのかが分かった。
ちょっと、止まって、あなたを眺めた。
あなたの靴の爪先が、クラシックバレエの王子のように、真っすぐ伸びていた。
他の男性は、女性も含めて、足の甲が曲がっていた。
あなたは、足を組んでいる。
深く組んだ足が、形になっていた。
足を組んでいるのに、気高い。
他の人は、足の組み方が、残念。
足をそろえている人も、開いている人も、残念。
ショーが始まるまでの時間を持て余している。
あなたのショーは、始まっている。
ギャラリーは、あなたを見ている。
ファッションショーの出演者は、ファッションモデルだけではない。
フロントローに座るあなたも、ショーを盛り上げるキャストなのだ。
フロントローは、キャットウォークよりも、目立つ。
フロントローのキャストが、かっこいいことで、ステージ全体がかっこよくなる。
あなたは、浅く腰掛けながら、ピンと背筋を伸ばしている。
そして、リラックスしている。
ショーが始まる前に、最高のショーを見せてもらった。