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#485 暗闇の中で、優しくほほ笑んで

あなたの暗闇での ほほ笑みが、好き。
あなたと、公園の中にあるカフェで、晩ご飯。
突然、電気が消えた。
「きゃっ」という女の子の小さな叫び声が聞こえた。
ハッピーバースデーの演出かと思った。
しばらくしても、バースデーケーキが出てくる気配はなかった。
停電?
ブレーカーが、落ちたか。
お店のスタッフが、動いている気配がある。
こんなとき。
あなたは、あたふたしない。
それが素敵。
さっきまでの明るさから、一気に暗くなっている。
暗闇より、暗く感じた。
窓の外を見た。
窓の外には、公園。
さっきまで、ついていたはずの街灯も、消えていた。
このあたり全体が、停電。
みんなが、静かになった。
さっきまで流れていたBGMも、止まっている。
公園とはいえ、都会の真ん中で、こんなに暗くて、こんなに静かだなんて。
公園の樹と空の境目が、見えてきた。
さっきまで、真っ暗に見えていた空が、ダークブルーになった。
ピーターパンが飛ぶ空の色になった。
目が慣れてきた。
真っ暗な部屋の中が、次第に見えてきた。
あなたは、スマホで事態を確認するような野暮なことはしない。
暗闇を、楽しんでいる。
暗闇を、味わっている。
あなたのシルエットが見えた。
どんな真っ暗な中でも、あなたがいることは分かる。
優しく ほほ笑んでいることも分かる。
テーブルの上で、あなたの手を握った。
停電が、このまま直らなければいいな。



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