#487 言葉は、まねできても
あなたの話し方が、好き。
あなたが話す、ひと言ひと言に、優しさを感じる。
ロマンチックな言葉も素敵だけど、なんでもない ひと言も好き。
あなたと、レストランにいた。
あなたの後ろのテーブルに、食後のコーヒーを飲んでいるカップルがいた。
男性のテンションが、上がっていた。
男性が、口説きぜりふを言った。
違和感があった。
どこかで、聞いたことがあるせりふだった。
あなたの本に書かれていた。
男性は、ここ一番のせりふとして、あなたの本のせりふを言った。
まさか、真後ろに、その本を書いた人がいるとも気づかないで。
同じせりふだけど。
全く違う言い方だった。
その言葉を、そんなふうに言ってはいけなかった。
品がなく、嫌らしく聞こえた。
明らかに、言われた女性が引いていた。
気づいた。
あなたの優しい言葉は、言葉が優しいのではなかった。
優しい言い方だった。
あなたと同じ言葉でも、あなたと全く違う言い方では、感じ方が真逆になってしまう。
背中合わせに座った人が、背中合わせの言葉を言っているのが、面白かった。
あなたは、気づいていなかった。
(あなたの本の言葉よ)
私は、小さい声で、ささいた。
(僕、そんなこと、言うかな……言うかもね)
ほほ笑んだ。
じ言葉なのに、全く違う言葉。
言葉はまねできても、話し方はまねできない。
気の毒なことに、男性は、もう次がないことに、気づいていない。
あなたは、罪作りなことをしているのかもしれない。
表面だけまねをして、失敗する人を多く生み出している。
彼女がなかなか帰らないのは、さっきからあなたの話を聞いていて、もっと聞いていたかったから。