#495 一緒に、マイペースで
あなたと美術館に行くのが、好き。
あなたと、美術館に行く。
あなたは、黙って味わっている。
私も、黙って味わっている。
この時間が、好き。
特に、何かを話しているわけでもない。
美術館は、話ができない。
できない分だけ、もっとたくさん、話している気がする。
音声ガイドを聴いている。
あなたが聴いているのと、タイムラグがあっても、それも気にならない。
見るスピードも、前後する。
それも、気にならない。
カップルで、見に来ている人がいる。
小さい声で、男性が一生懸命、説明している。
テレビで見た情報を、披露している。
その人は、彼女が、うっとうしく感じていることに気づいていない。
別のカップルは、女性が作品とは関係ない話をしている。
また別のカップルは、美術に興味のない男性を、女の子が連れてきてしまった。
女の子がまだ味わっている最中に、さっさと次の部屋に行こうとしている。
そういう雑音をむしろ結界にして、あなたは静けさの中にいる。
あなたとのデートは、楽しい。
美術館に一緒に行くのは、デートの中でも最も楽しいこと。
今まで、デートで、美術館は考えることができなかった。
自分のペースで見たかったから。
今でも、自分のペースで見たいのは、変わらない。
あなたは、私が、自分のペースで見ることを、放置してくれる。
かといって、無理に合わせてくれるわけでもない。
あなたも、マイペースでいてくれる。
それが、感じられる。
一緒とマイペースが、共存している。
それが、心地いい。
美術館に一緒に行って気にならない人がいたら、その人とは一生、一緒に歩いていける。