#496 宇宙の果てまで、追いかけて
あなたの考えているときが、好き。
公園の池のほとりで、少年を見かけた。
少年は、何かを見つめていた。
何を見つめているのか、分からなかった。
あなたに、似ている。
あなたの黙っているときの、たたずまいに似ていた。
ふと、あなたが黙る。
そのとき、あなたはぼんやりしているわけではない。
逆だ。
あなたの頭は、高速に回転している。
猛スピードで、何かを追いかけていっている。
はるか宇宙の彼方(かなた)まで、飛んでいっている。
あなたは、最新鋭の望遠鏡でも見えないくらい遠い、宇宙の果てまで、飛んでいっている。
今、思いついた何かのアイデアを、トンボを追いかけるように、追いかけていっている。
あなたの瞳の焦点は、無限大になっている。
そして、帰ってくる。
この間、5秒にも満たない。
その5秒の間に、あなたは宇宙の果てまで、飛んでいって、帰ってくる。
生還したあなたは、さわやかに ほほ笑む。
「間違ってたのが、分かった」
あなたの ほほ笑みが、そう語っている。
間違っていたのが分かったのに、この ほほ笑み。
あなたにとって、合っているか間違っているかは、どうでもいい。
自分の仮説が間違っていることが分かることで、前に進める。
あなたは、進んだことに、ほほ笑んでいる。
あなたは、子供のころ、将棋ばかりをしていたらしい。
大人になってからは、将棋を封印している。
他のことが何もできなくなるから。
将棋をやめても、宇宙の果てまで、追いかけていく習慣は、続いている。
池を見ていた少年が、ほほ笑んだ。
帰ってきた。
帰ってきた少年は、あなたと同じ ほほ笑みをしていた。