#500 奇跡に出会うと、おなかが鳴る
あなたの奇跡が好き。
あなたと出会ったのは、展覧会のレセプションだった。
若い外国在住のアーティストの展覧会。
絵を見ている人は、ほとんどいない。
パーティーピープルが、パーティーを楽しんでいる。
そんな中で、あなたは絵を見ていた。
全く違う存在だった。
美人が多い。
絵を見ている人はいないけど、あなたを見ている人はいる。
あなたを見ている人に、共通点がある。
美人であること。
輪から離れて、1人でいること。
たぶん、来る時から、1人で来ている。
絵を見ながら、あなたを見ている。
話しかけられるのを、待っている。
あなたは、さりげなく、絵の話をする。
二言、三言話すけど、それ以上が続かない。
残念、彼女は、せっかくのチャンスを逃してしまった。
それが、奇跡のチャンスであることに気づいていなかった。
美人だから、チャンスが多いに違いない。
なまじ多いと、チャンスが奇跡であることに気づきにくくなる。
私は、自分から声をかけた。
あなたは、話してくれた。
名前を名乗ることもなかった。
「お名刺ください」とも言わなかった。
ちょうど、今日一番の絵の前だった。
その時、私のおなかが鳴った。
「好きな絵に出会うと、おなかが鳴るんです」
私は言った。
「内臓で、見てるんだね」
そのあと、食事に行った。
私のおなかの音は、奇跡の出会いの音だった。