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#502 私の体に、書いて

あなたの字の見方が好き。
あなたと中華街に行った。
入った一軒のお店。
あなたのオーダーは、早い。
まるで、いつものお店で、いつものお気に入りを頼むように、選ぶ。
たいてい、初めてのお店。
あなたは、直感で選んでいる。
そこに、迷いがない。
気持ちがいい。
出されたプーアール茶を味わいながら、あなたが、壁を見つめている。
壁にメニューがあったのかしら。
そこには、「蘭」という字が書かれていた。
あなたが、振り返る。
反対の壁には、「竹」。
あとの2つには、「菊」と「梅」の文字が書かれていた。
文人が目指す境地を、4つの草木に象徴すると、あなたが教えてくれたことがあった。
そして、あなたが「蘭」を見ている。
頭の中で、臨書が始まっている。
いい字を見たとき、あなたはいつも頭の中で、臨書をする。
その瞬間が、好き。
頭の中で、臨書をしているときのあなたが、セクシー。
(ここは、こんなふうな気分で、体が動くのかあ)
と、あなたがつぶやいているように感じる。
今、この瞬間、あなたはどこかに行っている。
夜。
ベッドの中で、あなたに腕枕。
あなたが、天井に、今日見た「蘭」という字を、イメージで書いてくれる。
お手本を見ないで書く背臨。
あなたの動きが、腕枕の中にいる私にまで、伝わってくる。
天井に書かれた「蘭」の文字が、光っている。
私の体の中にまで、書かれてしまった。



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