#504 坂を歩くと、恋になる
あなたと歩く坂が好き。
あなたと、浮世絵展に行った。
広重の「名所図会」特集。
日本画に奥行きがないと言われるけど、そうなのだろうか。
広重の描く町並みには、高低差がある。
富士山も、高低差をデフォルメしている。
江戸は、坂の町。
私は、坂に、ときめく。
ドキドキするのは、有酸素運動をしているからではない。
なんか、坂が好き。
あなたといると、坂を上っている気がする。
あなたは、神戸で育った。
神戸も、坂の街。
山を背にして、神戸港が見える家で育った。
雪が降ると、車は、バックでしか上れないくらい、急な坂道だ。
坂の上から見る景色が好き。
坂を見つけると、用事がなくても、上りたくなってしまう。
江戸時代の人も、坂を楽しんだに違いない。
坂の上には、神社やお寺があり、お茶屋さんがある。
広重の描く町並みは、有名なところだけではない。
庶民が見つけた、なんでもない坂の上から見た風景が多い。
坂を上る江戸の人々の表情は、生き生きしている。
決して、苦しそうじゃない。
川の町・大阪にも、坂がある。
台地の先端に、大坂城が築かれ、坂を堀の代わりにした。
坂は、セクシー。
高低差が、なんでもない風景を、にわかに艶っぽくしてくれる。
あなたと、坂を歩くのが、好き。
一歩一歩を、味わえる。
平らな道を歩く感覚と、違う。
人類は、何百年も前から、坂を上ってきたような気がする。
子供のころ、通っていた学校も、坂の上にあった。
ジェットコースターも、下るときより、上っていく瞬間が好き。
あなたに会うずっと前から、あなたと坂を歩くことを、夢想していた。
坂を上るだけで、私は、いってしまっていた。