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#514 轟音の先の、無音

あなたの滝が好き。
あなたと、滝を見に行った。
遠くから、滝の音が聞こえてくる。
最初は、川のせせらぎ。
鳥が鳴いている。
やがて、せせらぎの音が、大きくなる。
その次に、音質が変わる。
オーケストラの楽器が変わったような感じ。
まだ、滝の姿は、見えない。
岩が、ゴツゴツし始める。
あなたが、手を持ってくれる。
あなたに手を持ってもらっているだけで、体が浮いている感じがする。
マイナスイオンが、立ち込めてくる。
いよいよ滝が、近づいてくる。
この大木の向こう側に、滝がある。
太古の昔からあったであろう大木を回り込む。
あら。
不思議なことが、起こった。
滝の轟音(ごうおん)が、消えた。
道を間違えて、通り過ぎたのだろうか。
鳥の声も、しなくなった。
無音の世界。
滝がない。
ないのではない。
視野が全部、滝になって、滝と岩の境目が消えたのだ。
滝の真ん前にいた。
轟音は、限界を超えると、無音になる。
あなたと、滝の日本画を見に行ったことを、思い出した。
松と岩を徹底的に描くことで、滝が浮かび上がると、あなたが教えてくれた。
無音の滝は、あなただった。
あなたの静けさは、轟音を通り越した無音だった。
私の中を、滝が流れ落ちていた。



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