#519 黄な粉味の、キス
あなたの予告が、好き。
「週末のデザートは、黄な粉餅だよ」
あなたが言った。
予告してくれるあなたが、好き。
もう、私の口の中には、黄な粉餅の味が広がっている。
食べるときも、おいしいけど、食べる前も、おいしい。
実際に食べたときより、想像している間は、無限に味が広がる。
食べる前が、おいしい。
サプライズで食べるより、予告されて食べたい。
子供のころから、黄な粉が好きだった。
「ご飯に、黄な粉をかけて食べてたよ」
しまった。
先に言われたのが、悔しい。
今週は、口の中に、ずっと黄な粉餅の味を味わえる。
甘すぎず、黄な粉と砂糖のバランスが、絶妙。
黄な粉餅を食べる前に想像する、おいしさ。
実際に食べたときの、おいしさ。
二度おいしさを、味わわせてくれる。
あ、二度じゃなかった。
食べ終わったあとも、黄な粉餅の味を思い出せる。
思い出す味も好き。
思い出しながら、目を閉じて、ニヤニヤ味わってる私。
これが、3度目の味わい。
ふと、あなたの唇が、私の唇に。
あなたの唇から、私の唇に、黄な粉餅の香りが届く。
黄な粉餅の香りのキス。
これが、4度目の味わい。
そして、あなたの黄な粉餅の香りのキスを、思い出して。
5度目の味わい。
すべての味が、少しずつ違う。
思い出すたびに、違う。
また、食べたい。