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#520 ワルツのリズムで、入って

あなたとエレベーターを待つのが、好き。
あなたと、食事のあと。
エレベーターを待っていた。
エレベーターは、なかなか来なかった。
あなたの、ハミングが聞こえた。
気がつくと、私の両方の肘が、あなたの肩の上に載っていた。
あなたが、ワルツを口ずさんでいる。
ここは、どこ。
さっきまで、たしか、エレベーターを待っていたはずなのに。
私の体は、浮いている。
「踊ろう」とも、言わなかった。
なのに、気がついたら、踊っていた。
ステップは、何も考えなくていい。
私は、ダンスを習わなくちゃと、思っていた。
でも、こうしてあなたと踊っていると、もう一生、ダンスを習わなくていいことが分かった。
だって、なんにも知らなくても、あなたがこうして踊らせてくれるから。
他の人とは、踊れないって。
他の人とは、踊らないから大丈夫。
これは、反則でしょ。
エレベーターを待ちながら、ワルツを踊っているなんて。
BGMは、あなたの鼻歌。
あなたの肩に腕を載せて、揺れているだけなのに。
まるで、ボールルームで、踊っているような気分。
時間の流れが、緩やか。
あなたのワルツは、1・2・3じゃない。
もっと、もっと、はるかに、緩やかな感じ。
大きな、大きな、波を感じる。
このリズム、どこかで、感じたことがある。
なんだろう。
心地よい感覚。
思い出した。
ベッドで、あなたが、私の中に入ってくるときの緩やかなリズム。
あれは、あなたの緩やかなワルツのリズムだった。
エレベーターが、永遠に来ないことを、願って。



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