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#521 ベンチに座って、夢の国へ

あなたとベンチに座るのが、好き。
あなたと、散歩する。
ここは、「歴史公園100選」に選ばれた公園。
「座ろう」
庭園で、こんなことを言う男性は、いない。
ベンチは疲れた人が座る場所だと、男性は思っている。
あなたは、女の子の気持ちが分かる。
ベンチが濡れていないか、手でさり気なく、払ってくれる。
ベンチに、座る。
座ると、景色がまるで変わる。
ここにベンチを置いた人は、ベストポジションを見つけ出して、ベンチを置いた。
このアングルから見ないと、この景色を見たことにならないでしょ。
ベンチが、そうささやいている。
あなたに座ってもらって、ベンチがうれしそう。
風が、通り抜けた。
心地いい風。
こんなに日差しが強いのに、ここは避暑地の涼しさ。
クーラーでは、この涼しさは出せない。
風の通り道に、ベンチが置かれていた。
かつてこの庭園を作ったお殿様も、こんなふうに座ったに違いない。
あなたが、お殿様に見えてきた。
私のスカートが、輝いている。
ベンチのある場所が、木陰になっている。
かといって、真っ暗でもない。
木の葉をすり抜けて、木漏れ日が、私のスカートで踊っている。
風が吹くたびに、木漏れ日も、揺らめく。
目の前に、池が広がっている。
池に、光が反射している。
あら。
さっきまで見ていた景色と、また違う。
そんなに長い時間、座っていたわけではない。
10分か、20分か。
そんなわずかな間に、景色が変わっていた。
ベンチに座らないと、庭園を味わうことはできないことを、あなたは教えてくれた。



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