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#528 笑顔で、待っている

あなたの、タクシーを待つ風情が好き。
あなたと、タクシーを待っている。
雨が降り出した。
こういうときは、タクシーはなかなかつかまらない。
つかまえようと、川上に行く人もいる。
タクシーを待っている人の顔が険しい。
1台の空車が来た。
さっと、川上に移動した人が乗り込んだ。
あなたを、見た。
あなたは、ほほ笑んでいる。
いつも通り。
まるで、タクシーを待つことさえ、楽しんでいるように。
しばらくして。
また、遠くに1台の空車がやって来た。
そしてまた、川上に、乗ろうとする人が現れた。
必死に、道に乗り出して、手を挙げている。
タクシーは、回送だった。
たしかに、さっき見たときは、空車だった。
それが、回送に変わった。
回送のタクシーが、あなたの前で止まった。
まるで、愛馬がご主人さまの前で、止まるように。
あなた、笑顔で乗り込む。
「助かりました」
あなたは「なかなか、来なかった」とは言わない。
回送のタクシーだったのに。
あなたは、必死で手を挙げていたわけではなかったのに。
あなたの笑顔で、タクシーが止まった。
運転手さんは、男性。
男性でも、乗せる人を選ぶ。
そういえば、よく、回送車があなたの前で止まる。
そういうことだったのね。



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