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#530 ご飯のよそい方が、優しい

あなたの よそってくれるご飯が、好き。
あなたと、和食屋さんに入った。
個室のお座敷。
おひつが、届いた。
仲居さんが、女性の私のほうに、おひつを置いた。
あなたは、いつも、おひつを自分のほうに引き寄せて、よそってくれる。
あなたは、ご飯のよそい方が、上手。
おじいさんが田んぼをしていたらしい。
そのせいで、おじいさんの代から、ご飯のよそい方が厳しかった話を聞かせてくれた。
ご飯のよそい方が奇麗な男性は、セクシー。
あなたは、高校時代から、学校の旅行先でも、おひつ係をしていた。
あなたがよそってくれるご飯は、おいしい。
お米の香りがする。
あなたのよそってくれるお米は、ふんわり空気に包まれている。
美容師さんの言うエアリーな感覚。
まるで、お茶碗の中で、浮いているみたい。
あなたは、おひつを、かき回さない。
おひつの蓋を開けると、上のドーナツ状の端のところから、よそってくれる。
「ここが、一番おいしく炊けるところだからね」
そう言われて、割烹に行ったとき、料理長がよそうところを、カウンターで見ていた。
あなたと、同じように、端からよそっていた。
あなたは、上品に、3回に分けて、盛ってくれる。
ひと盛り、ひと盛りの間に、隙間がある。
これが、絶品。
お茶碗の中で、ご飯が芸術品のように、オブジェとなる。
食べるのが、もったいない。
何よりも。
ご飯に、優しく話しかけながら、よそっているようだ。
あなたは、ご飯にも、優しい。
まるで、私が優しくしてもらっているみたい。
よそう人が優しさを込めるから、あなたがよそってくれたご飯がおいしい。



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