#533 寝転がって、作品になる
あなたの現代アートの見方が、好き。
あなたと、美術館へ行った。
先週まで人気の企画展で、大行列だった。
その後なので、いつもより静かに感じた。
こういうときを狙って来るあなたが、好き。
大きな企画展がないときでも、美術館は生きている。
常設展が、ある。
小さな企画展が、ある。
小さな企画展には、大きな企画展にはない学芸員さんの思い入れが感じられる。
だから、好き。
マニアックなものも多い。
あなたが、人気の企画展の後の美術館の楽しみ方を、教えてくれた。
ほぼ、貸し切り状態。
テレビでも、雑誌でも、紹介されない。
展示物も、多くない。
そのお陰で、美術館そのものを、味わえる。
美術館って、そのものが、作品なんだなと、気づかされる。
階段1つ、壁1つ、天井1つ、柱1本が、作品に見えてくる。
現代アートが、多い。
現代アートは、特に、作品なのか、ただの壁なのかの区別が難しい。
なんだって作品と、考えることができるようになる。
私1人、1つの大きな部屋に入った。
何もない。誰もいない。
ここは、準備中かな。
見ると、床に、枕が2つ、置かれている。
置かれているというより、忘れられているという風情。
作業の人が、休憩していたのかな。
次の部屋に行こうとしたときに、あなたが部屋に入ってきた。
当然のように、スーツのまま寝転がり、枕に頭を乗せた。
私も、隣に、寝転がった。
天井が、見えた。
上下の感覚が、なくなっていく。
誰かが来て、私たちを見ている気配を感じた。
私たちは、このとき、作品になっていた。
あなたと、寝転がったまま、手をつないだ。