#543 そんなところを、見てる
あなたが変なところを見ているのが、好き。
あなたと、美術館に行った。
美術館に行くと、別行動をさせてくれる。
そのお陰で、集中できる。
あなたにも、気を使わないですむ。
あなたは、まるで1人で来ているように、作品に集中している。
集中しているあなたも、1つの作品。
つい、見入ってしまう。
あなたの見方は、速い。
速いのに、深い。
速いのに、細かい。
速いのに、感動している。
おっと。
作品より、あなたを見てしまっている。
あなたは他の人と、見ているところが違う。
他の人が気づかないところを、見ている。
キュレーターが、こだわっているところに、きちんと気づく。
みんながネックレスを見ているとき、あなたは人台(じんだい)を見ている。
あなたの目線を逆算すると、たしかに、人台が普通のものではない。
何千年も、火山灰に埋もれていた神代杉というのを聞いたのは、美術館を出たあとの食事のときだった。
「仏師が彫ったんだよ」
もっと見ておけばよかった。
「入り口の時計も、逆周りしていたね」
気づかなかった。
作品と一緒に置かれているものを、あなたは見ている。
作品を展時しているケースを見ている。
あなたといると、いかに自分が何も見ていないかが分かる。
やっぱり、あなたを見ている。
でも、あなたを見ていることで、いろんな世界も見えてくる。
あなたが、神代杉に見えてきた。