#545 静けさに、吸い込まれて
あなたの静けさが、好き。
あなたと、レストランにいる。
静かだった。
あなたは、それ以上に静か。
意外だった。
あなたは、いつも楽しそう。
にぎやかな人だと、みんなは思っている。
私も、思っていた。
それは、あなたのサービス精神。
あなたは、静謐(せいひつ)。
無音というわけでもない。
遠くで、水のせせらぎのような音が、聞こえる。
無音では、逆に小さな音が気になってしまう。
あなたから、せせらぎが聞こえる。
これ以上大きいと、うるさい。
これ以上小さいと、他の雑音が聞こえてくる。
絶妙な、小ささ。
しかも、その時、その場によって、あなたのせせらぎは、調節されている。
あなたは、すべての雑音を吸収している。
一流のコンサートホールの壁のように。
あなたと出会ってから、嫌な音が、さらに嫌になった。
あなたは、きっと嫌に違いない。
そんなとき。
近くで、ワイングラスが割れる音が鳴った。
みんなが、驚いて、振り返った。
あなたは、何事もなかったかのように、振り返らなかった。
聞こえないふりをしているのか。
そんな感じでもない。
あなたは、一瞬にして、その音を、中和した。
あなたには、不快な音が聞こえていなかった。
ワイングラスの割れる音に、振り返った自分が、恥ずかしくなった。
静かって、こういうこと。
私も、あなたの静けさの中に、吸い込まれていく。