#546 コートを脱ぐと、腕の中に
あなたのコートの脱がせ方が、好き。
今日、初めてのコートを着た。
あなたと一緒に、お店の中に入った。
えっ。
何が起こったのか、分からなかった。
プレーバック。
スローモーションで、もう一度。
私は、コートを脱ごうとした。
肩を抜いた瞬間、私は180度、回転していた。
あなたに、背中を向けていた。
あなたが180度、回転した。
いや、世界が180度、回転した。
あなたは、動いていなかった。
私は、あなたに背を向ける形に立っていた。
コートは、肩を脱いで、肘まで下りている。
次の瞬間、私の体が、ねじれを取り戻すように、また180度、回転した。
さっきとは、逆回り。
コートの袖は、私の回転に合わせて、脱がされた。
『ラプンツェル』の塔に巻き付く蔓(つた)のように。
目の前に、あなたの笑顔があった。
さっきより、近づいていた。
あなたの手には、私のコートが、奇麗に畳まれて、かかっていた。
コートは、宙に、浮いているようだった。
近い。
あなたが、近い。
あなたの唇が、近い。
あなたは、一つも動いていない。
あなたは、私を180度、回転させて、また180度、ねじれを戻した。
すると、唇の距離が近づいていた。
ダンスだった。
コートを脱がしてもらったのか、あなたに吸い込まれたのか、分からなかった。
コートの季節は、大変なことになると予感していた。