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#547 女の子を、大人の女に

あなたの、子どもに見られるところが、好き。
あなたと、新幹線の中。
家族連れが、乗っている。
連休なのを、忘れていた。
どこかで、赤ちゃんが、泣いている。
ビジネスマンが、咳払(せきばら)いをした。
「泣かせるなよ」と、あからさまに伝える咳払いだった。
男性は、赤ちゃんの泣き声が苦手。
泣いていても、はしゃいでいても、苦手。
あなたは。
あなたは、全く、赤ちゃんの泣き声を気にしていない。
むしろ、心地よく聞いている感じ。
大号泣していても、すやすや眠っている。
それが、無視という感じでもなく、「運動、がんばってるな」と見守っている感じ。
赤ちゃんが、あなたに見守られながら、眠ってしまう。
あなたの中には、女性が住んでいる。
だから、赤ちゃんの泣き声に、イライラしない。
通路を挟んで、前方に、女の子がいた。
まだ、学校に上がる前。
私を窓側に座らせてくれて、あなたは通路側。
女の子が、あなたを見ている。
あなたは、本を読んでいる。
女の子の目線に気づいて、ほほ笑んだ。
女の子が、さっと、隠れた。
そういえば、彼女はさっきまで、元気いっぱい、走り回っていた。
席に戻っても、はしゃいでいた。
気がつくと、おとなしくなっていた。
疲れて、電池が切れたと思っていた。
あなたを見て、おとなしくなったのだ。
子どもは、正直。
あなたは、よく、子どもに見つめられている。
私だって、君みたいに、この人を見つめていたいのよ。
大人になると、我慢しなくちゃいけないんだからね。
今のうち、いっぱい見ておいたほうがいいよ。
女の子が、椅子の背から、そっと顔を出して、あなたを見た。
それは、大人の女の顔だった。



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